野上哲矢

●研究テーマ

研究活動における自己リフレクション活動と

支援手法の提案

●研究概要

卒業研究など研究室の中で学生が日々行う研究活動において,日記のように日々の活動を継続的に記録し,自己の活動を振り返りながら研究を進めていくことは効果的であるとされている.さらにこのような記録の整理にはブログシステムが有用であるが,従来のブログシステムを用いた振り返り(リフレクション)では,エントリ間の関係の把握やタグ付与時の負荷が高いということがあり,リフレクション活動が困難なものとなっている.そこで本研究では,ブログの記述対象となる研究に関連の深いキーワードに着目し,エントリへのタグ付与やエントリ間の関係付けを支援するためのシステムを提案する.その上で,本システムの活用に基づいて,自身が歩んできた研究活動の内容を可視化しながら振り返るという自己リフレクション活動を提案する.

●研究詳細

    • 背景

卒業研究などで初めて研究活動を行う学生にとって,その活動は多くの学習活動とは違い,容易に進められないことが多い.この理由として,従来の授業形式で行われていたような学習と違い,定型化された解法や一般的な正解が存在しない悪構造問題であること,また一つの概念についても,個人の中で考えや理解に変化が多くあり,自分自身でも整理しきれないということなどから,研究の進め方や現在の進捗状況が自分自身でも不明瞭になりがちであるという理由が挙げられる.そのため自身の活動の経過や状況の把握が非常に重要であると考えられる.

    • 記録とリフレクション

自身の活動の経過や状況を把握するため,記録が用いられることが多々ある.これは主に「書く」という活動と「見返す」という二つの活動があり,それぞれにメリットがある.

まず記述することによって自分自身の思考の整理をすることができ,副次的な効果として記録を書くということを意識することで日々の活動の意義を考えるなど,何かを感じようとする積極的な姿勢を生みやすいというメリットがある.

次に自らの記録を見返すことによって,これまでの経過や変容の軌跡を知ることができ,現在の問題点や足りない部分を確認することができる.さらに,他者の記録を見ながら自分の活動と比較することで,自らの不十分な点を認識することができ,活動の参考にすることができるというメリットがある.

これらのメリットは研究活動でも当てはまると考え,自身の研究についての記録を書き,それを見返しながら進めていくという手法は有用であると考えられる.ここで,以降本研究では記録を記述する部分を記録フェーズ,見返す部分をリフレクションフェーズと呼ぶ.

記録フェーズにおいて,ユーザは自身の研究についての記録を行うが,研究活動は中長期的に行われるため,記録の情報量が膨大になることが予想される.そこで,文章をサーバ上に時系列順で整理することができ,時間的・空間的制約を受けずに複数人で記録の共有をすることができるということから,ブログシステムを活用する.

リフレクションフェーズにおいて,研究室内で行うリフレクション活動として

    1. メンバー個々人での振り返り

    2. 研究室内で他者の記録との比較による振り返り

    3. 研究室全体としての振り返り

という3つのパターンが考えられる.

まず①では,自身のこれまでの記録から現状の問題点や進捗状況を確認することで,当面の作業予定を考える手立てとし,今後の活動の指針を立てるときに役立てるというものである.

次に②では,研究室内の似たテーマで研究している同期や先輩などの記録と比較し,自分のしてきた活動の評価や不足している活動などに気付くことができる.また誰を見習えばよいのかを考えることで,見習うべき点やスムーズに活動を進める手法を知るための足がかりになるという効果がある.

そして③では,複数人の記録を集めて全体的に眺めることで,研究室全体としてどのような活動が良かったか,どのような活動が足りないのかを考える足がかりになるというものである.

ここで,従来のブログシステムをそのまま用いて自己リフレクション活動を行うにはいくつか問題がある.

まず,適切なタグを決定するためには,全体の記録を把握したうえで現在の状態を端的に表す言葉を選ばなければならないため,書き手の負荷が高くなってしまう.

→記録フェーズにおいて適切なタグ選定のための支援が必要

また,長期的な記録を見返す場合,文量が多くなるため記事の流れや差分を把握する負荷が非常に高くなってしまう.

リフレクションフェーズにおいて要約や視覚化による支援が必要

  • 支援手法

・適切なタグ選定のために

エントリ記述後にシステムにより提示されたラベルの中から選択という手法をとる.

このラベルは研究室コミュニティ内の語彙をあらかじめ階層的に分類して準備しておく.その分類をもとにシステムがラベル候補を提示しユーザはその中から選択しエントリに付与する.

研究活動は研究室ごとに内容やスタイルが異なるため,ラベルは研究室コミュニティ内で決定するものとしている.

各々の研究におけるキーワード集合を準備し,それらをカテゴライズし抽象化したものをラベルとして設定する.

階層化の方法としては,研究の流れを大まかに分類したメインラベルとそれぞれに該当する記録から抜き出したキーワード群を集め,それらをさらに細分化したサブラベル,そしてサブラベルそれぞれに該当するキーワードが格納されているという構造になる.

ラベル分類の一例

・エントリ内容や変化の把握のために

ラベル間の関係をリンク付けという手法をとる.

リンクに関してもあらかじめ研究室コミュニティ内の記録から抽出しておき,その結果をもとにシステムがリンク候補を提示し,その中から選択してリンク付けを行う.

本研究室の記録から洗い出しを行った結果,思考的な側面の強い「背景」「分野・対象」「手法・方針」間のリンクについては《吟味》《具体化》《統合》《進展》《変化》など,活動的な側面の強い「システム・実験」「作業・活動」「文献・論文」については《継続》《進展》《改善》などが出現するという二分した形になった.リンクについてはあまり多様化がなかったので,このぐらいの準備で十分だと考えた.

  • 支援システム

これまでで説明した手法を実装した支援システムについて説明する.以下の図に示したのは活動の全体像である.個々の活動について詳しく述べていく.

システムによる活動の全体像

・キーワードの分類

キーワードの分類はサンプルとなる訓練記事をいくつか用意し,形態素解析を行うことでキーワードとなりうる単語を選別し,その一覧から内容が適切なラベルに割り振っていくという手法で行う.

キーワード分類活動概要

・ラベル候補の提示

ラベル候補の提示は,先ほど述べたキーワード分類とエントリから抽出された単語とのマッチングにより行う.エントリから抽出された単語で,キーワード分類構造に一致するものがあれば,そのラベルを候補ラベルとして提示する.このような手法が使えるのは,キーワード分類自体が研究室ごとのメンバーにより作成されているため,研究分野の違いによる用語のブレなどを考慮する必要性が少ないためである.

エントリからキーワード抽出とマッチング

ラベル候補イメージ

・リンク候補の提示

リンクの候補提示個所として

①直近の同ラベル

②直近の日付のラベル

が考えられる.下記の例では0628に以下のラベルがついたエントリを記述した場合,システムは「システム・実験の作成」ラベルの付いた一番日付が近いエントリを提示し,リンク候補として活動的な側面の3種を候補として提示する.ユーザは関係性を考え,その中から適するものを選択し,リンク付けを行う.

同様にシステムが直近の日付のエントリ間でエントリとリンク候補を提示し,ユーザに関係性を考えさせる.

リンク候補提示イメージ

・ラベル-リンク構造を用いたリフレクション活動

下図にシステムによるラベル-リンク構造の提示の様子を示している.このようなラベルとリンクの全体像を見ることで,自身の活動の大まかな変容や,他社の記録の概要,自分の興味のある個所の特定などをすることができ,タグ付与時の負荷や記録情報や変遷の流れの把握をするための負荷が軽減され,リフレクション活動の足がかりになっているといえる.

システムによるラベル-リンク構造提示

●研究業績

野上哲矢,舟生日出男,平嶋宗,“研究活動における自己リフレクション活動と支援手法の提案”,JSiSE2010学生研究発表会,pp.191-193,(2010.03)

・ 野上哲矢,舟生日出男,平嶋宗,“研究活動における自己リフレクション活動と支援手法の提案”,人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B102,pp.1-4,2011

●参考文献

・伴紀子:“学習ダイアリーを用いた学習の意識化への働きかけ”,南山大学日本文化学科論集(5),pp.7-18,(2005)

・永留圭祐,長谷川忍,柏原昭博:“研究知の共有・継承を目的とした知的ハイパーBlog”,人工知能学会研究会資料SIG-ALST-A901.pp.33-38,(2009)

・相良直樹, 砂山渡, 谷内田正彦:“サブトピックを考慮した重要分抽出による報知的要約生成”, 電子情報通信学会論文誌, Vol.J90-D, No.2, pp.427-440, (2007)

・形態素解析エンジンMeCab, http://mecab.sourceforge.net