佐々木 一真

研究テーマ

「力学の学習支援システムにおける力の関係の外化支援機能」

研究概要

外化とは、自分の理解や持っている知識などを図的に表現することであり、その外化の活動およびその外化されたものの観察が学習において大きな効果を挙げることが広く知られている。本研究で取り扱う力学学習でも外化の支援に関する研究がいくつか行われているが、これらは主に解法の適用過程についての外化を行っていた。これに対し本研究では、解法の適用過程ではなく、問題理解の過程に着目し、その中でも力の関係についての外化を行った。問題理解は解法の適用過程に大きな影響を及ぼす重要な過程であると考えられ、その中でも力の存在の理解は、力学の問題解決において最も重要なものと考えられる。この力の存在を理解する上で、他の力と関連付けて理解することで、その力単体としてではなく、物体系に働く力を全体的に捉えることができるようなると考えられる。そこで力の関係を外化することでその理解を支援するため、力の関係について整理し、その力の関係を記述することができるインタフェースと記述された外化表現を診断し、フィードバックを返す機能を設計し、システムとして実装した。

本システムでは力の作図問題を取扱い、その作図過程に考えた力の関係をグラフ表現で外化する。力をノード、関係をリンクで表したグラフ表現を用いることで、力の関係を表すために必要な情報を損なうことなく、視覚的に認識しやすい表現を実現できる。また外化における負荷を軽減するため、力の作図に伴いノードを自動生成する機能や、力の関係を整理したことでリンクをメニュー形式にするなどの、力の関係図の作成に必要なノードとリンクを用意する機能を実装した。診断・フィードバックについては、力の作図と力の関係図それぞれについて、ユーザの解答データと正解データを比較し、その差分を誤りとして指摘する機能を実装した。

この機能を実装したシステムの評価実験を行ったところ、システムのログデータやアンケート結果から、被験者は力の関係を意識しながら演習を行うことができたと考えられる。テストにおいても力の関係を外化する能力が向上しており、本システムによって外化を促進させることができたといえる。またこの実験のシステム利用で実際に生じた誤りをもとに、診断についてのアンケート調査を行ったところ、概ねシステムにおける診断が不適切ではないことが示唆されたが、隣接面に誤って作図された力の診断や、物体系の捉え方を考慮した診断を行えるように改善する必要があると考えられる。また他の様々な誤りについても調査を行い、診断方法の妥当性について検証していくことが今後の課題としてあげられる。

また他にも今後の課題として、システムの操作性の向上と、フィードバックの改善が挙げられる。特にフィードバックについては、現在のダイアログ形式で文章による誤りの指摘では、視覚的に非常に分かりづらいものであると考えられるため、改善の必要性がある。例えば、力の関係図において学習者の解答に誤りがあるとき、正解データとの差分を関係図上で示す方法や、力の作図と力の関係図で対応がとれていないとき、その部分を強調する方法などが改善案として考えられる。このようなフィードバックにすることで、視覚的に認識しやすくなり、誤りへ気づきやすさが改善されると考えられる。また評価の面では、本研究で行った評価実験は予備的なものであり、実験環境の都合上、十分な時間を設けて行うことができなかった。そのため、改めてシステムや学習効果について、評価実験を行う必要がある。力の関係を外化することによる学習効果については、力の関係の理解だけではなく、力の関係を理解することによって、力の作図や問題解決への影響についても調査する必要があると考えている。

研究実績(学会発表,学内発表,研究室内発表)

■学会発表

・佐々木一真, 平嶋宗, "力の説明入力機能を付加したEBSシステムの設計・開発", JSiSE2008第33回全国大会講演論文集, pp.428-429(2008.9).

調査文献リスト

・Chi, M. T. H. (in press), “Self-Explanations: How Students Study and Use Examples in Learning to Solve Problems”, Cognitive Science, 13, pp.145-182, (1989).

・Michelene T. H. Chi and Kurt A. VanLehn, “The Content of Physics Self-Explanations”, The Journal of The Learning Sciences, 1(1), pp.69-105, (1991).

・Cristina Conati and Kurt VanLehn, “Toward Computer-Based Support of Meta-Cognitive Skills: a Computational Framework to Coach Self-Explanation”, International Journal of artificial Intelligence in Education, 11, (2000).

・堀口知也, 平嶋宗, “誤りの修正を支援するシミュレーション環境-誤り原因の示唆性を考慮したError-Based Simulationの制御-”, 人工知能学会論文誌, Vol.17, No.4, pp.462-471, (2002).

・“教科書ガイド 高等学校物理Ⅰ改訂版”, 新興出版社啓林館, pp.33-94, (2008).

・“教科書ガイド 高等学校物理Ⅱ改訂版”, 新興出版社啓林館, pp.5-58, (2008).

・高校物理研究会・啓林館編集部, “センサー2008物理Ⅰ”, 新興出版社啓林館, pp.10-53, (2008).

・高校物理研究会・啓林館編集部, “センサー2008物理Ⅱ”, 新興出版社啓林館, pp.2-38, (2008).

・柏原昭博, 松井紀夫, 平嶋宗, 豊田順一, “ダイアグラムを用いた知識構造の外化支援について”, 人工知能学会誌, Vol14, No.2, pp.117-127, (1999.3).

・金西計英, 矢野米雄, “説明洗練による自己説明を用いた地理の知的学習環境の構築”, 電子情報通信学会誌, Vol.J79-A, No.2, pp.227-240, (1996.2).

・川勝博, 三井伸雄, 飯田洋治, ”学ぶ側からみた力学の再構成”, 新生出版, p.42-p.43, (1992)

・吉野巌, 小山道人, “「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響-物理分野の直落信念とMIF素朴概念に関して-”, 北海道教育大学紀要(教育科学編), Vol57, No.2, pp.165-175, (2007.2).

・宮田佳緒里, “大学生の力学における作図に及ぼす誤った知識信念の影響”, 東北大学大学院教育学研究科研究年報, Vol57, No.1, pp.253-268, (2008).

・吉永千晴, 田上光輝, 竹内章, 大槻説乎, “物理の学習環境における因果関係モデルと運動方程式の自動生成およびそのモデルを用いた学習支援”, 電子情報通信学会技術研究報告, ET, 教育工学, pp.93-100, (1994.12).

・浅海賢一, 竹内章, 大槻説乎, “物理系における因果関係の理解を支援するための対話方法”, 電子情報通信学会論文誌, Vol.J80-D-Ⅱ, No.10, pp.2848-2859, (1997.10).

・小出誠, 平嶋宗, 柏原昭博, 豊田順一, “初等力学を対象とした作図の診断システム”, 情報処理学会研究報告. コンピュータと教育研究会報告, 97(3), pp.1-8, (1997.1).

・今井功,東本 崇仁,堀口 知也,平嶋 宗, "中学理科における Error-based Simulation を用いた授業実践:-「ニュートンに挑戦」プロジェクト-", 教育システム情報学会学会誌, Vol.25, No.2, pp.194-203, (2008).

・水本 篤, 竹内 理, ”研究論文における効果量の報告のために―基礎的概念と注意点―”, pp.57-66 (2008).