佐賀誠司
[所属]
広島大学大学院工学研究科情報工学専攻
[研究テーマ]
算数・数学の文章題での立式を対象とした「言葉の式」の階層的な外化支援
[研究テーマ概要]
【目指したい学習支援】
○ 学習者の特定の活動に対して、その結果に含まれる誤りを指摘し、学習者へのリフレクション(内省)を促す
○ 特定の活動 → 結果の診断 → 診断の結果に基づいた学習者へのフィードバック
⇒ これらを計算機を用いて行い、インタラクティブな学習活動を行う
○ 理解の外化 に着目
-学習者が自分の考えを文章や図など(=外化表現)で記述する活動
-当該の事柄に対する理解を深めるうえで、有効な学習法
-学習者の誤りが診断可能になる
⇒ 外化表現の計算機による診断とその結果に基づく学習支援を目指す
⇒ 本研究では、中学数学の方程式文章題を具体例とする
【数学文章題における支援】
○ 数学文章題の解決過程
(1) 問題文から方程式を立て、それを計算し解を求める
(2) 問題文から方程式を立てる過程が特に難しいとされる
問題文 ⇒ (1) 方程式の立式 ⇒ (2) 方程式の計算 ⇒ 解
⇒ この過程では、学習者は問題文の状況と数式表現を関連付けることで問題を理解し、式を立てる
⇒ この関連付けについて学習者に考えを外化させ、そこでの誤りを診断・指摘することで、
方程式の立式を支援する
[研究テーマ詳細]
○ 基本的なアイデア ⇒ 算数数学文章題解決 = 言語的表現である「問題文表現」を、記号的表現である「方程式表現」へ変換すること
⇒ 「問題文表現」と「方程式表現」の間の橋渡しとなる外化表現の設定
⇒ 中間表現としての「言葉の式」に着目、これまで事例的に用いられ、明確な定義のなかった「言葉の式」を
本研究では以下のように扱う
図1 数学教育における表現体系
図2 表現体系と文章題解決および外化の関係
図3 正解の「言葉の式」生成手順
図4 「言葉の式」の外化手順
○ 本研究での「言葉の式」表現の特徴
(1) ある言葉は、2つ以上の言葉とその間の演算(+-×÷、=)によって表す
(2) 問題文中に直接現れない言葉が明示
(3) 1番下にくる言葉は、(a)既知、(b)未知、(c)問題で求めたいもの、のうちいずれかとなる
(4) 1番上にくる言葉は、問題文であり、“=”でつながれた2つの言葉で表す
○ 「言葉の式」作成 ⇒ Kit-Build方式
⇒ 教師の組み立てた「言葉の式」を正解とし、その構成要素である「言葉」を部品(キット)として用意
学習者はキット間の関連付けを行うことで「言葉の式」を作成(ビルド)
⇒ 診断は、正解の「言葉の式」と学習者の「言葉の式」の異同の抽出として行われるので、計算機による診断が実現しやすい
○ 対象とする問題範囲 ⇒ 小学算数(特に□などの記号を扱う高学年が適している)、
中学数学1(1次方程式)、2(連立方程式)の教科書問題
[研究実績]
佐賀誠司,平嶋宗,"プログラミングにおけるメモリ処理に関する誤りの可視化機能",JSiSE2010学生研究発表会,pp.23-226,(2010.03)
佐賀 誠司, 中川 和之, 平嶋 , "算数・数学の文章題における「言葉の式」の階層的表現を用いた立式支援", JSiSE中国支部研究発表会10周年記念大会, pp.19-22 (2010,07).
[調査文献リスト]
[1] 平嶋 宗,中村 祐一,池田 満,溝口 理一郎,豊田 順一:ITSを指向した問題解決モデルMIPS,人工知能学会誌,Vol.7,No.3,pp.93-104(1992)
[2] Kintsch, W., Greeno, J.G: Understanding and Solving Word Arithmetic Problems, Psychological Review, Vol.92, No.1, pp.109-129(1985)
[3] Polya, G.: How to solve it, Princeton University Press(1957)
[4] 松井 紀夫,柏原 昭博,平嶋 宗,豊田 順一:多重外化表現を用いた自己説明支援について,電子情報通信学会技術研究報告,AI96-30,pp.1-8(1997)
[5] 平嶋 宗:作問学習のモデル化,第23回人工知能学会全国大会(2009)
[6] 平嶋 宗:「誤りへの気づき」を与えるインタラクションを目指して,ヒューマンインタフェース学会誌,Vol.6,No.2,特集「学習・創造・インタラクション」,pp.31-34(2004)
[7] 佐々木 一真,平嶋 宗:力の説明入力機能を付加したEBSシステムの設計・開発,JSiSE2008第33回全国大会講演論文集,pp.428-429(2008)
[8] Mitchell J.Nathan, Walter Kintsch: A Theory of Algebra-Word-Problem Comprehension and Its Implications for the Design of Learning Environments, Cognition and Instruction, Vol.9, No.4, pp.329-389(1992)
[9] 村田 剛志,加藤 裕樹,志村 正道,沼尾 正行:図を用いた算術問題解決システムDIPS,電子情報通信学会論文誌,Vol.J82-D-2,No.1,pp.75-82(1999)
[10] 伊藤 敏裕,金子 敬一:数学の文章題を解くための作図支援システムの開発,情報処理学会研究報告,No.2006-CE-083,pp.9-16(2006)
[11] 岩根 典之,竹内 章,大槻 説乎:算数の文章題を対象としたネットワーク型知的教育支援環境,電子情報通信学会論文誌,Vol.J80-D-2,No.4,pp.915-924(1997)
[12] 多鹿 秀継,中津 楢男,野崎 浩成,伊藤 俊一:算数割合文章題の理解と解決を支援するコンピュータ操作による線分図方略の開発,愛知教育大学教育実践総合センター紀要,No.3,pp.27-34(2000)
[13] 山口 潤:文章題における問題を読み取るための指導について-「割合」単元の指導を通して-,上越数学教育研究,Vol.21,上越教育大学数学教室,pp.211-220(2006)
[14] 中原 忠男:算数・数学教育における構成的アプローチの研究,聖文社,pp.193-250(1995)
[15] 矢島 秀浩,安田 伸一,小西 達裕,伊東 幸宏,小原 啓義:数学文章題の問題世界における事物の統合・分割の関係の分類,情報処理学会第42回全国大会講演論文集,pp.214-215(1991)
[16] 福田 裕之,山崎 和也,舟生 日出男,平嶋 宗:Kit-Build方式による概念マップのインタラクティブ化,人工知能学会研究会資料,SIG-ALST-A803-11,pp.59-64(2009)
[17] 川瀬 純一,若山 皖一郎,早野 清,後藤 信彦,大串 一彦,市野 典明:文章題指導でのワープロの活用-題意の把握から立式まで-,日本教育情報学会第10回年回,pp.124-127(1994)
[18] 平嶋 宗,河野 隆宏,柏原 昭博,豊田 順一:算数の文章題を対象とした問題演習支援機能の実現,電子情報通信学会論文誌,A,Vol.J75-A,No.2,pp.296-304(1992)
[19] 清水 明子:文字式立式課題の解決過程に関する研究-解決モデルの作成とその検討-,日本教育心理学会第39回総会発表論文集,pp.474(1997)
[20] 益子 典文:一次方程式文章題解決過程におけるトピック内容の影響-再生刺激法による解決過程特性の調査について-,日本科学教育学会研究会研究報告,Vol.6,No.6,pp.35-40(1992)
[21] 岡本 和夫,小関 煕純,森杉 馨,佐々木 武:楽しさ広がる数学1,新興出版社啓林館,pp.70-89(2008)
[22] 岡本 和夫,小関 煕純,森杉 馨,佐々木 武:楽しさ広がる数学2,新興出版社啓林館,pp.28-47(2008)
[23] 三浦 香苗,渋谷 美枝子,土屋 明子:中学生における算数の基礎的学習内容の達成状況と達成重要度認識,千葉大学教育学部研究紀要,Ⅰ,教育科学編44,pp.29-44(1996)