Takuya OSADA 長田卓哉
学部
(A)研究テーマ名
概念マップへの基本関係リンクの導入とそれを用いたマップ間の差分の修正支援
(B)研究内容
従来のKit-Build方式で用いられていた概念マップに基本関係リンクを導入することで,Kit-Build方式中のフィードバックを改善した
(C)研究業績
2010年春 JSiSE 学生研究発表会 発表
(D)参考文献
(1) Novak, J.D., & Canas, A.J.: “The Theory Underlying Concept Maps and How to Construct Them”,Technical Report IHMC CmapTools,(2006)
(2) 福田裕之,山崎和也,平島宗,舟生日出男:“Kit-Build式概念マップによる学習内容の構造的理解促進法”,人工知能学会全国大会(第24回)1E3-OS7-7(2010)
(3) 山﨑和也,福田裕之,平嶋宗,舟生日出男,“概念マップのインタラクティブ化‐Kit-Build方式の実装と実験的評価‐”,教育システム情報学会第34回全国大会講演論文集,pp.462-463(2009,08)
修士
(A)研究テーマ名
Kit-Build概念マップによる授業内対話の支援 - 小学校6年理科「月の形と太陽」での実践事例 -
(B)研究内容
Kit-Build方式とは
概念マップを用いて教師と児童の理解の差分を発見,診断する手法である.
(1)概念マップ
概念マップとは
・知識を整理し表現するための手段
・概念をノード,概念間の関係をリンクとして構成する
・ノード・リンク・ノードの組は命題という基本単位を表す
・理解を表現するのに有効
下図が概念マップの例である
(2)Kit-Build方式
手順
・教師が伝えたい内容を概念マップで表す.この概念マップを「ゴールマップ」と呼ぶ.
・ゴールマップをノードとリンクに分解する.分解してバラバラになった部品を「キット」と呼ぶ.
・キットを児童に与え,児童は自身の理解を基に概念マップを再構成する.再構成された概念マップを「学習者マップ」と呼ぶ.
下図がこの手順を表した図になる
このように教師が作成した概念マップを用いることでいくつかのメリットが生まれる
・ゴールマップと学習者マップで使われている部品が統一されているので,二つの概念マップが比較可能である
・部品が統一されているので全てのマップ(あるいは任意のマップ)が重畳可能である
主にこの2つのメリットが挙げられる.
それぞれ,可能になったことがあるが,何故それが有効であるのかを説明する.
まず比較可能について.
ゴールマップと学習者マップを比較することで差分が表れるが,この差分は教師が伝えたいこと,児童が理解していることの差分である.
つまりこの差分が,教師にとっては指導対象,児童にとっては理解修正の対象となることが分かる.
次に重畳可能について.
全ての児童が作成した概念マップを重畳することで,児童全体の理解状態を視覚的に把握することができる.
この重畳した概念マップのことを「重畳マップ」と呼ぶ.重畳マップの例を下図に示す.
重畳マップでは,どのリンクが何人引いているか,また誰が引いているか等の情報が含まれており,児童全体の理解状態の把握をサポートする.
また,この重畳マップとゴールマップを比較することで,間違っているリンクを何人,誰が引いているかも把握可能になる.
Kit-Build方式を用いた授業
まず,Kit-Build方式を授業で用いることのメリットを列挙する.
・児童全体の理解状態の把握が容易
・教師と児童の理解の差分が明示される
・一斉指導・児童を巻き込んだ議論が容易にできる
・理解を表したマップを基に指導することで知識構造そのものを修正できる
といったメリットが挙げられる.
では,実際にどのような形態で授業に組み込まれたかを説明する.
・まず単元のはじめに児童に概念マップを作成させる(ゴールマップはあらかじめ用意しておく)
・重畳マップをもちいて授業内対話を行う(後に詳しく授業内対話について説明をする)
・児童に再度概念マップを作成させる
・重畳マップを用いて再度授業内対話を行う
下図にそのフローを示す
では,先ほどから出てきている「授業内対話」について説明する.
授業内対話
重畳マップを児童全体に見せ,その重畳マップ中で間違っているリンクを児童に提示する.
そのリンクについてクラス全体で議論をして理解を深めていく.
このように重畳マップ中の児童が間違えたリンクについて議論する.
しかし,授業時間は限られており,間違えたリンク全てについて議論することは不可能である.
そこで,多くの児童が間違えたリンクだけを指摘することで,できるだけ多くの児童に対してフィードバックを試みる.
結果
上記に述べたように,児童には2回概念マップを作成させ,1回目と2回目には授業内対話を行っている.
つまり,1回目と2回目の概念マップをスコアリングし,比較することで,授業内対話の効果(概念マップを授業で用いることの効果)を測ることができる.
その結果を以下に示す.
授業は小学校6年生の2クラスで行った.分析を行うにあたって児童を成績上位群と成績下位群の2つの群に分けた.
なぜ上位群と下位群に分けたかというと,約半数の児童が1回目のマップで既に高得点を獲得していたため,
授業内対話でのフィードバックの効果が分かりにくいと判断したからである.
上のグラフを見ると,上位群,下位群共に成績が向上していることが分かる.
また,pre-post x クラス x 上位下位 要因で3要因混合分散分析を行った結果,
下位群のpre-postにおいて有意に差があることが分かった.
このことから,重畳マップを用いたフィードバックがマップ作成に有効に働いたということが言える.
まとめ
・Kit-Build方式とは教師と児童の理解のズレを診断する手法である
・従来の授業形態とは異なった授業の形態を提案
-Kit-Build方式を用いた授業を行い授業内対話の支援を行った
・Kit-Build方式を用いた授業を行うことができ概念マップ作成では成績の向上がみられた
(C)研究業績
第36回教育システム情報学会全国大会 発表・大会優秀賞 受賞
(D)参考文献
[1] Novak, J.D., & Canas, A.J.: “The Theory Underlying Concept Maps and How to Construct Them”,Technical Report IHMC CmapTools,(2006)
[2] 福田,山崎,平嶋,舟生:Kit-Build方式による概念マップの自動診断及びその実験的評価,JSiSE第35回全国大会(2010.8).