水田曜平

(更新:2011/12/12)

(A) 研究テーマ名

「概念マップ作成過程のモデル化とそれに基づく作成支援機能の設計・開発」

(B) 研究内容

【研究背景と研究目的】

概念マップとは、2つ以上の概念とそれらの関係から構成される命題の集まりによって意味構造を表した図的表現であり、 知識や理解の整理活動としての学習効果とともに、学習者の理解を外化・共有可能にする上で大きな意義を持つとされている。

(概念マップにおいて、概念をノード、概念間の関係をリンクとして表す。)

この概念マップの自動診断を実現したものがKit-Build方式である。

Kit-Build方式のフレームワークは以下の手順からなる。 (Kit-Build方式についてさらに詳しく知りたい方⇒こちらのHPへ)

(1) 教授者がゴールマップを準備

(2) ゴールマップを分解して、マップの部品(キット)を用意

(3) 学習者がキットを結合して、マップを作成

(4) 学習者マップとゴールマップを比較し診断

マップを比較することで診断された差分(学習者のマップにおける誤り)は、学習者によって解消されるべきである。

しかし現状のKit-Build方式のシステムでは、学習者への支援は行っておらず、マップに現れた誤りを学習者が完全に解消するのは難しい。

そこで、その差分を解消するために学習者へヒントを提示することによって作成支援を行う。

「物質の三態」のゴールマップ(左)とキット(右)の例

【マップ作成履歴からのアプローチ】

学習者のマップ作成の分析を通して、学習者の典型的な作成方法として(Ⅰ)グループ作成、(Ⅱ)概念中心作成、(Ⅲ)直近隣接作成の3種類を見つけた。

これらの種類に応じたヒントを提示することで、学習者へのマップ作成支援とする。

(Ⅰ)グループ作成

グループ作成は、学習者が概念マップの特定部分を集中して組み立てる作成方法であり、この時、学習者はゴールマップ中の意味的なまとまりを持つ部分マップについて考えていると推測できる。

このような場合において、学習者が焦点をあてている部分マップに関係したヒントを与えることは有効だと考えられる。

左図はプログラミングにおける「データ型」に関するグループを学習者が作成している例である。

このグループに関して、学習者は丸で囲んだ数字の順にマップを作成していて、「数値型」と「実数型」の間のリンクをまだつなげていないとする。

そのような場合、学習者が現在考えているグループの中でまだつなげていない部分である「数値型」と「実数型」の部分をヒントとして提示する。

(Ⅱ)概念中心作成

概念中心作成は、学習者が特定の概念にいくつかの概念を連続でつなげていくような作成方法であり、この時、学習者は特定概念について考えていると推測できる。

このような場合、特定概念に関するヒントを与えることは有効だと考えられる。

右図は学習者が「関数」ノードを中心にマップを作成している例である。

この時、学習者が「関数」ノードに着目して考えていると推測できるので、「関数」ノードに関するヒントを提示することは有効だと考えられる。

「関数」ノードについて見てみると、まだ「引数」ノードがつながれていないので、「関数」と「引数」の部分をヒントとして提示する。

(Ⅲ)直近隣接作成

直近隣接作成は、学習者が最近つなげたノードに新しい概念をつなげる作成方法であり、この時、学習者は新たにつなげた部分に着目していると推測できる。

このような場合、最新の履歴につながるノードをヒントとして示すことは学習者にとって役に立つものだと考えられる。

左図は学習者がこれまで作成したマップであり、最後につなげた部分は「引数」と「関数」である。

このことから、学習者は現在「引数」と「関数」について考えていると推測できる。

したがって、提示するヒントの候補は「引数」または「関数」につながるノードとなり、左図の場合は「引数」とそれにつながる「仮引数」の部分をヒントとして提示する。

【システム】

これまでの議論を踏まえて、Kit-Build方式のシステムの改良を行った。

改良点は(1) グループ設定機能、(2) ヒント提示機能の2つの機能の付加である。

(1) グループ設定機能

グループ設定機能は教授者が使用する機能である。

教授者はゴールマップを作成後、そのゴールマップ中で学習者にひとまとまりで考えて欲しい部分についてグループ設定を行う。

下図はプログラミングについてのゴールマップ中に「型(データ型)」に関する部分を1つのグループとして設定した例である。

(2) ヒント提示機能

ヒント提示機能は学習者が使用する機能である。

学習者にはマップ作成途中で分からなくなったときに、ヒントボタンを押してもらう。

システムはその時点での学習者の作成履歴から提示するヒントを決定する。

(C) 研究業績

(D) 参考文献

  • Novak, J.D., & Canas, A.J.: “The Theory Underlying Concept Maps and How to Construct Them”,Technical Report IHMC CmapTools,(2006)

  • 福田裕之,山崎和也,平嶋宗,舟生日出男:“Kit-Build式概念マップによる学習内容の構造的理解促進法”,人工知能学会全国大会(第24回)1E3-OS7-7(2010)

  • 山崎和也,福田裕之,平嶋宗,舟生日出男:“Kit-Build方式による概念マップを用いたインタラクションとその実験的評価”,人工知能学会全国大会(第24回)2F1-2 (2010)

  • 山崎和也,福田裕之,平嶋宗,舟生日出男:“概念マップのインタラクティブ化―Kit-Build方式の実装と実験的評価―”,教育システム情報学会 第34回 全国大会講演論文集,pp.462-463 (2009,08)

  • Kazuya YAMASAKI, Hiroyuki FUKUDA, Tsukasa HIRASHIMA, Hideo FUNAOI. (2010). Kit-Build Concept Map and Its Preliminary Evaluation. The 18th International Conference on Computers in Education, pp.290-294.